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岡山地方裁判所 昭和53年(ワ)159号 判決

原告

河田食糧工業株式会社

右代表者

河田益一

右訴訟代理人

松岡一章

小林淳郎

被告

株式会社丸正製麺所

右代表者

渡辺弘

右訴訟代理人

奥津亘

佐々木斉

高原勝哉

大石和昭

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1及び原告が被告に対し昭和五一年一二月七日本件機械を販売し、同月二五日被告方に据付け引き渡しを了したこと、右代金額(据付費を含む)が五七〇万円であること、(但し右合意の日につき争いがあり)については少なくとも当事者間に争いがない。

二まず被告の債務不履行(不完全履行)による右売買契約一部解除の抗弁について判断する。

前項争いない事実に、〈証拠〉を総合するとつぎの事実が認められる。

(一) 県下の有力製麺業者であり、長らく岡山県製麺協同組合理事長の地位にある被告代表者渡辺弘は昭和五一年秋ころ以降、原告代表者河田益一より新たに製造販売をなす連続反転式茹釜の購入方を申し込まれ、右地元業者育成の意味を含め、被告代表者開発の手打うどん製造用延し機、切り機に加え、これに接続する右茹釜及び同様反転式による水洗機並びに自動制禦装置等の本件機械を買受けることとした。原告は右受注により被告の麺製造量及び設置場所に合わせ各器機の形式を選択、組合わせて製作を開始したが、そのころ右茹釜及び水洗機の複数可動篭の連続反転駆動方式が訴外山本真一の特許に触れるおそれが指摘され、かつ右茹釜、水洗機が同方式による原告製造大型機の一号機であつて実績のないことを懸念した被告代表者において原告代表者に対し右の点を確めたところ、同人より特許にも触れず、また絶対迷惑をかけない旨の言辞を得、原告代表者は昭和五一年一二月七日付代金五七〇万円の本件機械売買契約書(甲第二号証)に記名捺印をなし、前掲同月二五日右機械の据付がなされた。

(二) しかるに茹釜、水洗機につき、据付直後より故障が続出した。即ちいずれも可動篭を順次反転させるためのリミットスイッチが器機の下部に設置され、かつ防水に対する配慮が不十分であるため、水を扱い、特に茹釜では湯気及び湯が沸騰し、釜からあふれるため、スイッチ内に水気が入り、機械が停止する事故が度々発生した。更に右反転駆動装置の歯車が、可動篭及び内容物の重量の負担に耐え得ず、また原告代表者考案の特徴であるバランス用の重りが揺れてアーム部に引つかかるなどの原因によつて、割れる事故が発生し、特に昭和五二年三月ころ原告代表者が訴外山本の特許を免がれるべく、可動篭の水ぬき用の多孔部を塞ぐ鉄板を取付けたため、篭の重量増加により右事故が増発した。(ちなみに原告は右をもつて新発明に基づく茹釜と交換した旨主張している。)右故障の都度機械が停止し、茹上中の麺類は販売不能となるため、即刻被告より原告に対し右修理を依頼し、原告も直ちに社員を派遣して補修をなしたが、前記構造上の問題があり、中中抜本的な解決とならなかつた。

(三) このような事態に被告は同五二年一月一五日時点において原告に対し額面一九万円の約束手形一〇通の交付により代金の内金一九〇万円を支払い(右事実については当事者間に争いない。)、右茹釜、水洗機の代金額分にほぼ見合う残金三八〇万円の支払を留保した。

(四) 訴外山本真一は既に同五一年一二月社団法人発明協会工業所有権問題処理委員会の本件麺茹上装置が同人の特許の技術範囲に属すると解されるとの調査報告書を得て原告代表者と折衝中であり、同五二年二月同人より原・被告を相手方として右特許権侵害差止請求の訴訟を提起した。そして早速翌三月には原告代表者が右山本との間に右特許抵触を認め、原告において福井製麺協同組合に販売した小型の同方式茹釜については、山本が原告より特許実施料三〇万円を受領してこれを承認し、被告の本体茹釜については原告において、前記故障続出に手をやいており、機械引取りの話も出ていたことから、原告が右茹釜を撤去し損害金として一〇万円を支払い、山本は前記訴訟を取り下げるとの内容により和解が成立し、原告は山本に右四〇万円を支払い、山本は右訴訟を取下げた。

(五) 被告は茹釜、水洗機の故障が、修理しても再三同一故障を繰返すため、そのころ原告に対し直らないなら、右両器機を引取るように求めたが、原告より修理するか取換えるかするので待つてくれるように依頼された。そして原告より五月までに故障のない釜を入れる旨申し出があり、再度九月までに右期限が延期された。その間右故障の際には、止むを得ず被告において原告に手動のため各可動篭に取付けさせた把手を、従業員が一々手で反転操作して使用したが、湯がかかつて火傷を負うものが多く危険であり、従業員の中にはこのため止める者も出る有様であつた。歯車の破損については同年八月ころまでに、原告方にあつた予備の歯車一三個を右修理にすべて使用し、在庫が底をついた。リミットスイッチについては、原告が電気工事専門業者に右付け替えを依頼して後は従前より故障回数が減少したが、設置場所に問題があるため皆無とはならなかつた。

(六) 訴外山本は原告が被告茹釜撤去の約束を履行しなかつたため、同年五月再度原・被告に対し特許権侵害差止請求訴訟を提起し、同年九月には右仮処分命令申請をなした。同月二二日の静岡地方裁判所における右仮処分審尋及び本訴の弁論期日に、被告は右山本との間に金一〇〇万円を支払うことで和解をなしたが、同日同裁判所に出頭していた原告代表者に対し右器機の引取りを求めた。

以上の事実が認められ、〈反証排斥略〉。

そこで以上の事実により考えるに、まず本件売買は、当事者が物の個性に着眼して取引したものではなく、代替性のある一般の商品売買の範疇に入るものであるから、不特定物の売買である。そして本件茹釜、水洗機のリミットスイッチ、反転駆動装置歯車の度重なる故障の繰返しは、右両器機の構造上の欠陥によることが明らかであり、債務の本旨に従つた履行とは言い難く、これが原告の責任によるものである以上、再抗弁も失当である。ところで前記経緯に照らし、右給付につき買主被告において右瑕疵の存在を認識した上でこれを履行として認容した事情は全く認め得ないから、原告は本件機械のうち、茹釜、水洗機につき、なお不完全履行の責を免がれ得ないものである。

前掲原、被告がいずれも商人であり本件売買は商行為に当たるから、商法五二六条により被告は売買目的物の瑕疵の通知の義務を負うが、前記目的物の故障はいずれも引渡後六ヵ月以内に発生し(その後の故障はすべて右繰返し)、被告は右隠れた瑕疵を発見次第、原告に対し右修理を要求することにより、右義務を履行ずみである。しかして給付の内容が可分の場合、右不完全履行の部分につき一部解除をなし得るものと解すべきところ、本件茹釜、水洗機は本件機械の他の部分と分離独立したものであることは明らかである。従つて被告は右につき一部解除をなし得るものであり、被告において既に完全な履行を求めて再三原告に対し催告をなしているから、前掲昭和五二年九月二二日の被告より原告に対する右引取り通告により、右一部解除がなされたと認めるのが相当である。(なお〈証拠〉によれば、被告は原告に対し昭和五三年四月一二日付内容証明郵便により、先に解除通知をなした事実を申入れると共に、同日付で再度右引取りを求めて一部解除の通告をなしている事実が認められる。)

従つて本件残代金三八〇万円の請求のうち〈証拠〉によつて認められる、本件茹釜、水洗機の代金分三七八万円については右解除により被告はその支払義務を負わないものである。

三そこで残金二万円につき、債務不履行に基づく損害賠償債権との相殺の抗弁について判断する。

〈証拠〉によると、本件故障により機械が停止し、茹上途中の二ないし三袋(一袋二五瓩、一万円相当)のうどん粉使用の麺が商品価値を失い、一回当たり二万五〇〇〇円位の損害を蒙つたことが認められ、かつ前掲右事故による機械の停止は相当の回数に及んだものであり、被告は本件債務不履行に基づく損害賠償金としてこれを請求し得べきところ、被告は原告に対し昭和五七年一月二〇日の本訴第一五回口頭弁論期日において右相殺の意思表示をなしたことは本件記録上明らかである。よつて残金二万円及びこれに対する遅延損害金債務は相殺により消滅した。

四以上説示したとおり、本訴請求はその余の点に触れるまでもなく、失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(川鍋正隆)

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